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千年続く職人の技、トン・テン・カンのリズムで叩く包丁づくり。

世界一と称賛される牛刀

海外の刃物マニアから世界一と称賛される牛刀。最高級の鋼を使った鋭い切れ味で、手打ちならではの積層模様は、日本画を思わせるような繊細なデザインだ。

兵庫県三木市は、全国屈指の金物のまち。なかでも「田中一之介刃物製作所」がある辺りは、その昔、草刈り鎌の鍛冶屋で栄えた村だった。4代目の田中誠貴(しげき)さんは、父の代まで続いた草刈り鎌の生産をやめ、今は包丁だけを製作する。

「田中一之介刃物製作所」4代目の田中誠貴さん

「田中一之介刃物製作所」4代目の田中誠貴さん。スタンダードの包丁だけで約60種類の商品がある。そのうち約7割は海外に輸出。メイドインジャパン、そのなかでも“田中誠貴”のブランドを求めるコレクターたちがいるのだ。

現在の日本の包丁は、レーザーで形を作り、機械で熱処理、研ぎをして仕上げるのがほとんどだが、田中さんが作る包丁は全て手打ち。伝統工芸に認定されている福井県の越前市(旧武生市)で修得した千年も前から伝わる技で、しなやかな弾力を持たせながらも刃先は硬い包丁を打ち続ける。

「素材の性能を100%引き出すのが鍛治職人の仕事。手作業で作る包丁は、機械で作る包丁と粒子レベルで性能が全く違います。僕たちは1200度の炎で熱した鉄や鋼を鎚(つち)で打って、打って、粒子を細かく砕き、隙間を埋めて不純物を弾き出す。鋼の刃先にある粒子一粒のギザギザまで、打って締め上げる。粒子が細かい方がスッと切れる包丁になるんです」

鍛治職人の仕事

鍛治職人の仕事

鍛治職人の仕事

鍛治職人の仕事

鍛治職人の仕事

昔ながらの鉄と鋼を張り合わせる鍛接・鍛造という付け作業。鉄を叩いて締め上げて、組織を細分化する。一度火を入れた刃物は約30年、分子が動き生き続けるという。

鍛冶屋のリズムは、トン・テン・カン、トン・テン・カン。「鉄は熱いうちに打て」という諺があるように、基本は一発勝負。もたもたしていると温度が一気に下がるので、一瞬を見極めて火から取り出し打ち込む。スピードと正確性が命だ。

築60年の田中さんの作業場

築60年の田中さんの作業場。

鍛治職人の作業場は、明るい空間と薄暗い空間がある。格子窓で窓を広げて自然のあかりを取り込んだ場所(写真左)は、包丁を削る作業をするところ。つっかえ棒で跳ね上げる窓が付いた薄暗い空間(写真右)は、赤く熱した鉄の叩きどきを判断するためにあえて暗い。天井に設置された車輪には、砥石やベルトハンマーを動かすためのベルトをかける。昔は電力事情が悪かったので、建築段階から省エネで作業するための工夫がされていた。

時代を超えて継承されてきた伝統芸を体験し、本物を知る。

田中誠貴と一番弟子の長坂実さん

従業員は現在5人。左は、一番弟子の長坂実(ながさかみのる)さん。

「親方たちの一心不乱に鋼を叩く背中が男らしいと思った」と、田中さん。田中さんのように最初から最後まで手打ちで包丁を作る職人は、今では日本に数人しかいない。

「技術は一度失われると絶対に復活できないもの。だから先人のためにも打ち続ける」という田中さんは、包丁作りのほかにも地元の子どもたちや海外から訪れる観光客に向けて、“本物の包丁”を知ってもらうための体験教室も開催している。

体験教室

1200度の炉から赤く熱した鉄や鋼を取り出し、金槌で叩いて成形するまで、今も実働する鍛治職人の作業場で同じ作業を体験することができる。

田中一之刃物製作所

田中一之刃物製作所
住所:兵庫県三木市別所町石野875
電話:0794-82-5660
営業時間:9時~17時
定休日:木・日曜日
公式サイト:https://www.kanegen4th.com/
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